毒舌でトロフィーをもぎ取った。
12月18日、今年のM-1グランプリ王者に上りつめたのは、2008年結成のコンビ「ウエストランド」。不満をまき散らすディスリ漫才を炸裂させた。
人を傷つけないお笑いが幅を利かせる中、二人は違う。いや、二人というより一人か。
井口浩之がほぼほぼしゃべっているのだから。
相方の河本太は沈黙が多く、要所要所で返すだけ。アンバランスを逆手にとった新しい掛け合いで爆笑を取った。
「自分の人生で初めて主役に」
優勝が決まると、井口はこう語った。
「自分の人生なんですけど、初めて主役になれた気がしました」
河本は泣きながら、「僕もです」。4文字がやっとだった。
審査員の松本人志は「窮屈な時代なんですけど、技術とテクニックがあれば毒舌漫才もまだまだ受け入れられるという夢を感じました」と評価した。
□ ■
優勝会見のやりとりは次のとおり。
――1回戦からここまで、改めて振り返って。
井口「1回戦が余裕かというとそうではなくて、常に緊張感がありますから本当に嫌でしたね。優勝して一番うれしいのは、もう挑戦しなくてもいいこと。とにかく大変なんで」
――河本さんいかがでしょうか。
河本「……」
井口「しゃべれよ!」
河本「いまだに優勝した実感がないです」
――7261組の頂点です。
井口「(M-1は)たくさんの人が挑戦して風物詩になっている。芸人として絶対売れてやる気持ちはありましたが、チャンピオンになる人生とは思っていなかった。意外だなと思います。ネタで評価されることもそんなになかったんで」
――優勝後、「自分の人生ですけど主役になれた」と言いました。
井口「あれはかなり前から考えてました」
河本「僕はついてきただけですから。他の7千組の頂点とは思ってないです。僕を知ってる人は腹ちぎれるくらい腹立ってる」
――ここから忙しくなりますが、覚悟は。
河本「あぐらをかかないようにがんばりたい」
――河本さんの涙の思いを。
河本「子どもができてから涙腺がぶっこわれて。すぐ泣いちゃう。アニメ見ても。M-1のPVも死ぬほど見まして、あれがまた、いい酒のさかなになる……」
井口「そんなのどうでもいい! 教えてくれ早く! なんで泣いたか」
河本「自分がチャンピオンになるって思ってなかったから」
――その涙を見て井口さんは?
井口「ドン引きですよ。何もしてない、セリフもほとんどない、そんなやつがとにかく泣くなって言ってたんで。びっくりしました」
――漫才は良いことがなかった人間の復讐(ふくしゅう)だとおっしゃっていました。
復讐で笑わせる。キラキラよりギラギラ、ドロドロ。マイナスをプラスに転じる二人。優勝しても尖った芸風は変わらないといいます。生きている限り逃れられない「あること」とは。
井口「ネタが2本ともウケる…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル